スポーツ評論の不思議

スポーツの中でも古くから行われ、新聞報道などでも何の解説も無く当たり前に報じられている言葉に沢山の不思議があります。
スポーツの世界には科学的な論拠に基づかない精神論や根性論、更には頭で考えずに体で覚えろ論など一理はあるものの、中には結構的外れな観測がまことしやかに述べられていることに気がつきました。
同じ性質の野球とゴルフは共にボールを道具で打って飛ばすことから始まる競技ですので、よく似た性質を持っています。また専門誌も色々と出ており、それぞれに解説もよく目にしますが、いずれにも科学的な根拠の無い似非理論が出てきますので、私自身が経験もして実感したことなどから、自分なりに分析してみると大いなる間違いや勘違いがあり、いかにも正しいように言われていることが結構でたらめであったりします。
なお、さすがに科学的な分析が大事とされる昨今では余りこうした解説も少なくなっておりますが、過去に言われてきたことには何らの訂正や修正も出ておらず、そのままになっておりますところから、理論的に推察をしてみました。

先ずは野球について取り上げて見ました。
その1. ピッチャーの投げる球(球質)が重い・軽い
その2. ボールがバッターボックス付近で伸びる・お辞儀をする
その3. ボールに勢い(力)がある・無い
その4. バッターの打った球が良く飛ぶ・飛ばない
その5. ホームランが出易い球(投げ方・打ち方))

以上については、すべて良く言われている言葉ですが、実際にはどういうことか解説されたこともなく、そういうことがあるんだと、ぼんやり理解しているだけなのが一般読者だと思われます。
野球のボールは一定の大きさと重さが決まっており、ピッチャーの手を離れてからは慣性で飛んでくるだけの筈が、あたかもジェットエンジンを吹かして加速してくるが如きに伸びがあるとか力があると報道されたり、軽い球質だとか、重い球質でホームランが出難いなど、ボールの速さと重さが投げ方によって変化することが当たり前に言われていることにふと疑問を抱きました。

さて、ピッチャーの手を離れてからバッターの近くに来た時のボールの性質に何らかの違いが有るとすればそれはボールの初速と回転の仕方だけしかありません。初速はスピードガンで計測されているので判ります。あと回転によりどういう変化が起こるのかという観点に絞って推定してみました。

ピッチャーの手元を離れたボールは慣性で飛んでくる過程で空気の抵抗によって減速しながらキャッチャーまで達します。飛んでくるボールのエネルギーは質量x速度の2乗と言う法則があるので、速度が大きく影響します。バッターもしくはキャッチャーがボールが重いと感ずることは球が速いからと言うことしかありませんが、よく言われる言葉に伸びがあって速いけれど、球の性質が軽くてよくホームランを打たれると、有り得ない言葉が堂々と報道されたりします。かっての名投手であった江川投手が代表の如きに言われました。
逆にそれほどの速球投手ではないけれど球質が重くて、ずっしりと重量感があり、打ち難いと言うほうの代表選手として野茂投手がいます。
先ほども述べましたがボールの重さは同じであり、そのエネルギーは速度の二乗に比例しますから、重いと感じるボールは速度が速く、軽いボールは速度が遅いのが原因であるべきなのにスピードガンなどにより計測されたボールのスピードとは比例しない結果が感触として言葉になって伝えられています。たとえば江川投手の投球は150km、野茂投手は140kmなのに江川投手の投げた球は軽い、野茂投手のボールは重い、と言われます。
この矛盾に不思議を感じていたところ、ゴルフを始めてからボールの飛び方に回転が大きく作用することを知ったので、野球も同じである筈と気がつきました。
野球投手の投げたボールの速度はピッチャーの手元を離れたときの最高速度が表示されており、バッターボックス付近、あるいはキャッチャーの位置での速度ではありません。当然空気の抵抗で大きく減速しながら飛んできて、いつかは落下して停止します。
即ち、江川投手の投げた球が軽いと言うことはバッターボックス付近まで達したときには大きくスピードが落ちていたことになります。野茂投手の球は減速が少なくて、初速が小さくても高速で到達したと言うことになる筈です。江川投手が初速150kmで投げたボールがバッターボックス付近では120kmに減速していたとします。野茂投手は140kmで手元を離れたボールが130kmの速さでキャッチャーまで届いたとすれば先ほど述べた理屈が成り立ちます。同じ大きさで同じ重さのボールが大きく減速率が違うとすれば、空気抵抗が違うと言うことしかありません。
実はこの原因は球の回転なのです。ゴルフでは野球よりも科学的に解明されているので目にした人も居るはずですが、回転の少ないボールほどよく飛ぶことが知られており、距離を必要とするドライバーにはヒット面に溝が無くなって、ボールに回転を与えない設計に変化してきています。尚且つティーアップしてボールをアッパーに打ち出すことで遠くへ飛ばします。
即ち、回転の大きいボールは周りの空気を巻き込んで大きな塊として飛んで来るために空気抵抗が大きく、バッターの手元まで来る間に大きく減速し、速度が落ちるということなのです。
なお、回転は飛行物体の姿勢を安定させるものとして重要な要素でもあります。銃の螺旋軌条(ライフル)も同じ原理から利用されていますが、空気抵抗の多さもプラスされることになる訳です。
回転の多いボールは空気抵抗が大きいことが判れば、さらにこの回転が球筋にも大きく影響することが理解できます。速度が大きいうちは慣性のエネルギーのほうが大きいので球筋の変化が少なく速度が落ちてくると回転による空気抵抗の小さい方へ曲がります。カーブ、シュート、シンカーなどはすべてこの原理を利用して投げる変化球です。なお、速球と言われるボールも上方向への変化を求めた変化球の一種なのです。重力で下へ落ちながら飛んでくるボールを上方向へ吊り上げる変化球なのです。手元で伸びると言う表現は、バッターボックス付近で浮き上がる現象を言うらしい(^^♪、バッターから見れば目元の方へ近づいてくる変化球なので、離れていくボールが遅く見えるのと逆に早く見えるのだと思われます。
いっぽう、ナックルとかパーム、フォーク、違反行為ですが唾液で滑らして投げるスピットボール等はボールに回転を与えない投げ方ですが、球道が安定せずに不規則に変化(重力の働きで落ちると言う効果が大きい)しやすいので、バッターにとっては打ちにくいと言うことと併せ、回転が無いことから空気抵抗が小さく、少ない減速度で到着することになります。初速が遅い割にはバッターの位置ではスピードが落ちていないのが球が重いと言う感じとなる筈です。またバッターの手元で浮き上がる球は見た目では伸びると感じたり速いと感じたりしますが、実は空気抵抗が多いので急速に減速した結果本来落下するものが回転力により上方へ変化したことになり、バッターの目元に近づくため速く感じたり、落下しながら飛んでくる筈のボールが落下しないで一直線に飛んでくることで伸びがあると感じられたりしているだけで、実際には大きく減速しながら上方への変化をしつつ前進力ぎりぎりまで浮き上がっている状態と見ればその球は実は大変遅くなっており、軽くてホームランが出易い球であることが理解できます。
このことから江川投手は速球派として有名でしたが、実は上方への変化球の球質を持っており大きな回転数を誇るピッチャーだったのです。一方の野茂はフォークボール投手として回転の少ない球を投げることで、初速が遅くてもバッターボックスへ到達したときの速度は速かったということになります。
スピードガンの計測法を本塁ベースの上を通過する速度で捕らえれば、上記の推論が当たっているはずです。それ以外には有り得ない事として理解できる筈です。
以上で投手の投げる球についての観察はおわりますが、次は同じ観点からバッターの撃った球がどのようにして飛び、ホームランになり易いかについても考察してみます。
回転するボールとそれを打ちにいくバットの出会いがしらの反発エネルギーの大きさによりボールへ与えられるエネルギーが決まりますが、ボールは同じ重量であり、バットも似たり寄ったりです。慣性で飛んでくるボールの持つエネルギーはボールの重量x速度の二乗の他に回転のエネルギーもあります。打つバットには更に人の手による加速度という力が加わって、反発エネルギーが生まれ、その大きさが打球の初速を決定付けることになります。
しかし、ここにも打球の回転による球筋の安定と、回転が少ないことによる空気抵抗の現象の二つが大きく作用することは容易に想像がつきます。
判りにくい球の回転エネルギーについては卓球などで回転ボールをラケットで受け止めたときに判りますが球筋に直角で受けても、回転により別方向へ反発します。
バッター方向から見て下向きに回転するボール、カーブ・ドロップの類はバットの芯で捕らえれば上へ上がるボールとなりやすくポップフライになってしまい、上向きに回転する速球はゴロになり易いという訳です。バットを振る角度とボールが交差する角度にも大きなエネルギーロスが発生する要素があり、理想的な正面衝突を選ぶときに最も大きなエネルギーが生まれるわけです。
このようにして弾き飛ばされてからのボールの行方は回転のしかたにより支配されます。
即ち回転の少ない球ほど空気抵抗が少なく減速が少ないという原理と、球道を高く吊り上げてフェンス越えをさせる為にボールに正面側から見た上向きの回転を与える打ち方により減速が大きくてもホームランになるという場合もあります。
この二つの違いは省エネ打法でアッパー気味にバットを振り回転を与えないでホームランを打つ落合選手と、ダウンスウィングで打球に上向きの変化を起させる王選手の打球の性質に現れています。逆に捕らえてみると前進力ぎりぎりまで上方向へ変化する回転をする王選手のボールは勢いが無くなって落ちてくるので素手で受け止められることにもなります。
フェンス直撃のライナーボールはすごいスピードがあり、とても素手で捕れような物ではないと考えられます。
この意味から落合選手がアッパー気味にチョン打ちしたボールが不思議にホームランになるわけが判ります。回転の少ないボールはよく飛ぶのですが、弾道が浮き上がりませんから最初からアッパー気味に上へ向かって打つのです。
ここに芯で捕らえた初速の速いボールがフェンス直撃の2塁打になり、逆回転をする擦ったような打球がホームランになったり、アッパーにチョン打ちしたボールがホームランになったりする原因があります。ピッチャーの投げる球と同じ原理が働いているわけですが、ピッチャーの投球にはキャッチャーまでの一定区間だけのことなので判り難い部分があります。。

次にゴルフについて取り上げて見ました。
ボールは回転によって球筋や速度に大きな影響があることに気がつけばゴルフも全く同じになります。距離が欲しいドライバーショットはティーを高めにして左方向へおき、溝が彫ってないのっぺらぼうなフェイスのドライバーでアッパーに打ち、コントロールが必要なアイアンショットはフェイスに溝が刻んであり打球に回転を与え易くつくってあるクラブでダウンブロウに打つことで飛びすぎを防ぎ逆回転与えることで前進力ぎりぎりまで宙に浮かせ、グリーンへは垂直に近い角度で落下させることでボールの停止を狙うのです。でなければ170m先にある直径20mのグリーンにボールを止める事はできません。
下図のようなイメージでしょうか、青色がアッパー打球の放物線でドライバーで打つボールの軌跡であり、赤がアイアインで打つ逆回転をするボールの軌跡です、グリーンが真っ芯で捕らえたライナー打球となりゴルフで言うならトップボールで失敗打球になってしまいます。打ち出した初速が同じならライナーボールが一番エネルギーが大きいのですが、野球ではフェンス直撃の2塁打にしかなりません。ダウンブローで撃つと言われる王選手の打球は赤色の軌跡を描いたと思われ、フェンスを越えたときには前進力を失ってポトリと落ちてくることになります。アッパー打法が空中距離では一番効率が良い飛び方になるわけです。

なお、ピッチャーの投球に例えれば速球派の江川投手のボールは赤色に属し、野茂投手のフォークはライナーボールでしょうか。イチロウの外野からの返球は青色に当たるでしょうね。
ピッチャーの投球にはアッパー投法はありません。遠距離投球を求められていませんから。
なお、ゴルフにおいてはライナーボールのような最もエネルギー効率の高い球でも芝の上を転がる抵抗は大変大きいところから通常使われません。空気抵抗が比較的大きい打ちかたであっても、空中飛行距離の大きさや、そのコントロールが求められるので、幾種類かの打ち方がありますが、ライナーボールが求められるのはグリーン上におけるパターだけでしょうか。

なお、最近の軍事的な利用では大砲などの螺旋軌条(所謂ライフル)は同じ原理から廃止され砲弾の姿勢安定には別の方法が用いられるようになってきております。長い到達距離を得る為には弾丸を回転させて空気抵抗を増やすことがマイナスと考えられてきています。弾丸に尾翼をつけることが出来ない小銃・機関銃や拳銃では従来どおり銃身にライフルを刻み、弾丸を回転させて姿勢を保つ方法が取られています。

こうして理詰めで分析すれば、回転するボールは空気抵抗が大きくて、飛行中に大きく減速するのですが、飛球の姿勢、軌道などをコントロールすることが出来るのであり、回転しないボールは空気抵抗が少なく減速率が少ないところから勢いのある球ではあるのですが、軌道のコントロールが難しく、不規則に変化したり急速に落下してしまったりするということになります。
野球で言うフォークボールはこの原理を利用した投球方ということになるでしょうか。スピードが少ない割りに減速しないで打席へ到達し、不規則に変化する訳です。速球や変化球などの回転ボールは打席付近では大幅に減速することで変化が出るのとは大きく道理が違います。このように分析すれば誰にでも理解できることですが、「言われてみればその通りかも」でしょうか?、言われるまで気がつかないという人ばっかりなのがすこし気がかりですが(笑)。

                              マンダム