西洋の敗北:エマニュエル・トッド

最近読んでいる題記の書物に目を覚ませる記述があり、注目しています。まだ、完読していないのですが、日本のことにも言及しており、深い考察と鋭い目を持っていることに感銘している。
筆者のエマニュエルトッド氏はアイルランド系のイギリス人ですが、極めて鋭い目で西洋の現状や、アメリカ、ロシア、第3世界のことを分析し、全く新しい論点で分析しており、なるほどと頷ける部分が多く、又、そういう見方も出来るんだと新たな目を見開くことがあり、外国人なのに日本のこともよく見ているなと感心します。
 ウクライナ戦争のことにも大きくページを割いていますが、ロシアへの観方が変わるかもしれません。アングロサクソンの英米を支配者とする西洋というグループに日本が含まれていることにも驚きますが、よく考えてみれば日本の立ち位置はまさに西洋そのものですよね。
なお、ロシアを悪者扱いしていなくて、アメリカを批判する分析が、強調されています。ウクライナへ侵攻したロシアについても正当な分析をしており、西洋側の判断とは全く別の考えで分析しており、インドなどの第3世界のことについても考えを述べています。
単なるイデオロギー論ではなく、資本主義的な民主主義国家の先進国が陥る道筋が見えてきます。このことはロシア側の正義が正しいことになってしまい、西洋諸国では全く受け入れられない著書となるでしょう。

 世界を独・仏を中心とした西ヨーロッパ、EUから離脱したイギリスと同じアングロサクソンとしてのアメリカ並びのその保護国としての日本と韓国、ここまでを西洋と分別しており、ポーランドやウクライナを中・東欧としており、冷戦時のアメリカの敵国ソ連を引き継いだロシア、アメリカに対抗する第2勢力となった中国にインド・ブラジルなどの第3勢力に分けて分析しています。アングロサクソンの世界制覇というよりもキリスト教のプロテスタンチズムに原因を置き、イギリスの国教化が始まりでその理想を実現する形がいろいろと進化していったと分析しています。西洋と言ってもフランス、スペイン、イタリヤ、東欧諸国もふくめてカトリックの世界なので、アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツなどがプロテスタントの国ですが、理想を求める宗教的な精神が無くなってきており、アメリカが自らの奴隷制度を打破した正義の精神もプロテスタントの精神からきていると分析していますが、そのプロテスタンチズムが社会から無くなってきており、製造業の空洞化と言いますが、その実は海外の安い労働力を搾取する言ういわば奴隷制度の復活ではないか? 自由民主主義・資本主義発展の行きつくところが、金融や投資業、IT産業(すでにインド人などが占めている)中心で製造業が空洞化して海外の安価な労働力を搾取するだけの側に陥っている(奴隷制度と同じ)ことに警鐘を鳴らしています。ドイツがヨーロッパ全体を消費地として利用し、アメリカが中南米を、日本がアジア諸国を消費地、並びに生産拠点として利用する構造になっており、アメリカとイギリスは製造業を他国にゆだね(海外の安い労働力を搾取)金融と投資業に偏っていると言う。
 国民の階級としての中産階級は安定した労働者として育ったものを言う言葉でしたが、製造業の労働力を安い移民にゆだねるという変化から、製造業そのものの海外移転に進んだことにより、中産階級の消滅が起き、わずかな金融・投資事業者とその他一部の事業者だけが、多くの税を負担する構造に変化している一方で、国内の就業機会が大きく減少している。大学の生徒が目指すものも、科学・技術系より経営学・法律学(弁護士)などに変化しており、エンジニアーとして学ぶ生徒が少なくなっていることにも危機感があると言い、科学技術の開発も危うくなってきている。
 これがアメリカ社会の分断といわれ、労働者としての中産階級が無くなってしまい、高学歴の金融業及び投資会社従業員以外は(IT開発はインド人技術者に任せる)貧困層・不満層としての存在に陥っていることがアメリカ社会の実態と分析しています。
工業生産力は1945年頃(第2次世界大戦終了時)はアメリカが世界生産の半分近くもあったのに、今や10%台にに落ち込み、投資家・経営者として中国や東南アジアと中南米の安い労働力を収奪する、かっての奴隷時代と同じに戻っていることに等しいと警鐘を鳴らしています。ローマ帝国時代も同じだった筈で、最後は滅びました。日本も同じ道をゆっくりと進んでおり、中国での生産や東南アジアでの生産ということで彼らの安い労働力を収奪していることになっている。産業の空洞化と言われ、危機感を持った時代が終わり、投資事業と金融業としての収入に特化しつつあるのがアメリカでありイギリスであり、日本も同じ道を進んでいると分析しています。これは何もかも輸入に頼りドル高の中で原材料から農産品まで含めて大幅な輸入超過国である日本が海外事業から得る利益配当や利子収入で国際収支が大幅な黒字であることが証明しています。
 こうしたグループとは別の生き方をしているのがロシアであり生産から消費まですべて国内で行う方法で、経済封鎖を受けてもやっていける。一方で搾取されている立場を利用した生産大国に躍り出たのが中国だと言うわけです。もちろん資源問題や教育問題など、多角的に考察していますが、資本家として利益の増大を目指し、生産者・消費者を収奪する立場だけに進んでいく資本主義自由経済の本質を見抜いており、イギリスをトップにしてアメリカも続いている製造業の没落が起きているとしています。又その象徴のようなシンガポールが金融業だけで立国している国家などの将来がどこへ向かっていくのか? 日本は今後、どのような道を行くのか、海外へ移転してしまった製造業を国内へ取り戻すのは無理です。 グローバリゼーションという言葉のように国際分業が旨くゆけばよいのでしょうが、世界戦争が始まってしまえば工業生産力がものを言うことになり、アメリカがウクライナやイスラエルへ支援する武器・砲弾が不足し始めていると言う現実には恐怖を覚えます。アメリカの巨大だったはずの工業生産力が小さくなってしまった、と言うことなのです。日本もアメリカと同じ道を歩んでおり、工業生産の海外移転による製造業の空洞化が進んでおり、生活雑貨・繊維製品などは大半が海外製です。
イギリスはかっては世界に冠たる工業生産の大国だったはずですが、すでに自前の自動車産業すらなくなっており、金融・投資でしか経済が成り立たなくなっていることに、すでに国家として破滅しているとまで言いきっています。
 日本は何事にも慎重に対処しようとする特質から、まだ製造業が多く残存しておりますが、そこで働こうとする労働力が不足気味であります。製造業の要である工作機械の製造実績はかっては英国やドイツ、アメリカがトップでしたが、いまや中国と日本が占有していると言う。
 中國の製造業大国という在り方も購買者としてのアメリカや西洋(日本含む)があってこそ成り立つ存在であり、今後の世界がどのようになっていくのか? また、ロシアが独自の生き方をどこまで続けるのか? 

 ウクライナ戦争を契機に世界の闇を分析した著作となっており、ロシアへの観方に変化が生まれます。この著作ではロシアの功を沢山記述し、ロシアを悪とする西洋の考え方を否定しています。結果としてウクライナを支援する西洋の間違いも指摘しています。ソ連時代に圏内製造業の中心地だったウクライナ東部(いわゆるドンパス地方とクリミヤ)はソ連の重要な地域であったので、多くのロシア人が作業に従事し、住み着いていたというが、ウクライナが親西洋側に向かったことから、現地に住む多くのロシア人が迫害を受けているとしたロシアの主張には道理があるとしています。

以前に韓国人学者が記述した韓国批判の書物(反日種族主義)を読みましたが、彼が同朋に受け入れられなかったことと同じく、西洋に生まれ育った著者が西洋を否定するがごとき著作を出して、彼の考え方が受け入れられるのか、批判されるのか? 疑問がわきますが、一面というより多面的な観点から納得せざるを得ないところも多く、アメリカ人の分断化などが理解できるようになります。日本の今後についても大きな示唆があるように思われ、注目すべき著書だと感じます。
ぜひ一読されることをお勧めいたします。

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